【特許翻訳】訳しにくい表現 ~「何番目の」~

日本語ではごく普通の表現でも、いざ英訳してみようとすると「あれ?」ということがよくあります。

今回は「何番目の」という表現の訳について考えてみます。

目次

「何番目の」ってなんていう?

日本語では

「オバマは何代目の大統領?」

「私の席は何番目?」

などのように当たり前に「何番目?」という表現を使いますが、

英語ではそれに相当する表現はありません。

例えば上記の例であれば、

“How many presidents were there before Obama?”(オバマの前には何人の大統領がいますか)

“Where is my seat?”(私の席はどこ?)

のような表現をします。

特許翻訳で出てくると…

上記のように日常会話ではうまく言い換えて解決するのですが、特許翻訳ではこのようにいかないことが多々あります。

たとえば、「何番目の信号を読みだすのか」と言いたい場合、本当は”what signal is to be read”でよいのかもしれません。

実際このように訳して、クライアントにコメントで補足説明をするのもひとつの方法です。

ただ、たいてい『「どの信号」ではなくて「何番目の信号」と言いたいんです』などのように言われます。

このようなやりとりには時間と労力が割かれるので、翻訳者はなんとか「何番目の」を訳そうということになります。

「何番目の」の訳し方の例

「何番目の」を和文英訳した例を3つ挙げてみます。

特許文献より

例1

機械学習制御器は、あるサンプリングにおける制御目標値と学習履歴から算出した制御予測値との偏差に、α=A・exp(-λ×n)(A:最初(一番目)のオーバシュート抑制因子(ゼロ以外の定数)、λ:二番目のアンダーシュート減衰因子、n:何番目のサンプリングかを示す整数)の項を含む重み付けをして、第2時間量を算出する。

PCT/JP2010/067190 (Dc/dcコンバータの制御装置)

<対訳>

The machine learning controller calculates a second time value by multiplying the deviation between the target value of the machine learning control and the estimation value from leaning history in certain sampling by α=A·e×p(−λ×n) (A: a factor (except for zero) for suppressing the first undershoot, λ: a factor (constant except for zero) for suppressing the second undershoot, and n: an integer indicating the nth sampling).

US8493046B2 (Control device for DC/DC converter)

これはシンプルに表現できた例です。”the nth sampling”だけで「何番目のサンプリングか」ということを示すことができています。

例2

(a)当該端末装置 19は、何番目のプレイヤーが利用するものである力

(原文ママ:「あるか」の誤記と思われる)

WO2007094409A1 (ゲームサーバ装置、ゲームサービス方法、情報記録媒体、ならびに、プログラム)

<対訳>

(a) Which number player is using the terminal device19;

US20100227685A1 (Game server device, game service method, information recording medium, and program)

これはオーソドックスな「何番目の」の訳し方の例。実際このように訳すことが多いです。

例3

選択されたSRAM先頭アドレスに、何番目のSP信号を読み出すのかを示すNカウンタ3021の値を足し合わせることで、SRAM3010の読み出しアクセスが行われるアドレスが決定される。

JP5032997B2(Ofdm復調装置)

<対訳>

 An address for read access to the SRAM 3010 is determined by adding the value of the N counter 3021 to the selected initial SRAM address. The value of the N counter 3021 shows what number SP signal is to be read

US8077784B2(OFDM demodulation device)

こちらもオーソドックスな例。

まとめ

正直なところ、”What number”や”Which number”でどこまで正確に伝わるのかは分かりません。

でも、元々英語表現にないもので、しかも制限の厳しい特許翻訳では、これが最大限というところなのだと思います。

もっと柔軟に訳せたらいいな、と思うこともありますが、そこらへんはクライアントの考え次第。

そしてたいていの場合、クライアントは「なるべく日本語の逐語訳になるように」ということを望まれます。

結果として、上に挙げた訳例になることが多い現状です。

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