私が翻訳者になった頃は、翻訳者が訳文をワードに打ち込んで印刷、チェッカーが赤字ペンでチェック、それをもとに翻訳者が修正を行うという流れで作業をしていました。今考えるとずいぶんアナログに感じます。
現在は多くの翻訳者がCATツールを使っています。CATツールは非常に便利なものですので、ぜひ取り入れていきたいアイテムですが、どんなことができて、どんなメリットがあるものなのでしょうか。
CATツール(翻訳支援ツール)とは
CATツールとは、”Computer-assisted translation”の略で、翻訳作業を助けてくれるソフトウェアのことを言います。
CATツールの種類
クラウド型とローカル型
CATツールは大きく分けると、クラウド型とローカル型の2種類になります。クラウド型はインターネット上で作業をするタイプ、ローカル型はソフトウェアをパソコンにインストールして使用するタイプです。
クラウド型のメリットは
- どこでも作業ができる
- どのデバイスからもアクセスできる
- ソフトウェアのアップデートが必要ない
- クラウドに保存されるため、データを失う心配がない
一方、ローカル型のメリットは
- インターネットの速度の影響を受けない
こうしてみると、クラウド型の方がメリットが大きいように見えますが、私自身はローカル型を使用しています。
クラウド型も使用したことがありますが、一文翻訳するたびにクラウドに保存するための時間が必要で、そのたびに作業がストップしてしまったからです。一回たった2、3秒のことですが、一文翻訳するたびにその時間待たなければならないのは大きなロスで、ローカル型に切り替えました。
CATツールのメリット
翻訳スピードの向上
CATツールを使用することにより翻訳スピードが上がります。翻訳した文章を蓄積するため、一度翻訳した文と類似した文が出てきたとき、もう一度翻訳する必要がなくなりますし、類似した文を探してコピーする手間もありませんので、翻訳スピードがアップします。
一貫性を保てる
用語登録を行うことで、次回単語が出てきたときにすぐに表示されるため、訳ゆれを防ぐことができます。
チェック作業が簡単になる
原文と訳文が一対一で対応して表示されているため、チェック作業がしやすいです。
CATツールの機能
翻訳メモリ
TM (translation memory)とも呼ばれる機能で、過去の対訳データ(原文と訳文のデータ)を蓄積します。これにより、次回以降の翻訳作業時に翻訳メモリを参照し、必要があれば流用することができるようになります。
用語集
用語集を設定すると、その用語が出てきたときに訳語が表示されます。これにより、用語の統一、訳ゆれを防ぐことができます。
用語集は、翻訳会社が設定しておくこともあれば、自分で作業時に作成することもできます。作業時に設定しておくと、訳抜けがあったときに知らせてくれるため、訳抜け・誤訳防止にも役立ちます。
比較機能
原文に類似した文があれば、比較して差異部分を強調表示して示してくれる機能です。これにより、どの部分を流用して、どの部分を修正すればよいのかがすぐにわかります。
CATツールを使用する以前は、同様の機能のあるソフトウェアを使用していましたが、原文ファイルから類似した箇所を探してコピー&ペーストし、比較した結果と訳文ファイルを見比べながら修正する作業は手間がかかっていました。CATツールを使用すれば、自動で見つけて比較表示までしてくれるため、作業スピードが格段にアップしました。
CATツールの注意点
分割を間違える
CATツールは、一文一文を自動で認識してセグメントごとに分けてくれますが、分割する箇所を間違えることがあります。たとえば、文の途中で「。」があると、そこが文の終わりと認識されてしまい、二文に分割されてしまいます。
これは実際よくあり、手動でセグメントをまとめれば修正できますが、原稿を確認したり修正したりするロスが発生します。
文脈を把握しづらい
一文ずつがセグメントになっていると、原文と訳文の対応が見やすく、翻訳作業がしやすい一方、文脈が把握しづらいというデメリットがあります。
これは最後にワードファイルに出力して全体を通し読みすることで対策しています。
MT(機械翻訳)やTMS(翻訳管理ソフト)とのちがい
MT(機械翻訳)とのちがい
MTとは Machine translation の略で、つまり機械が翻訳してくれることです。CATツールは、翻訳の補助をしてくれるだけで翻訳するのは人である点がMTとは異なります。
TMS(翻訳管理ソフト)とのちがい
TMSとは Translation management system の略で、つまり翻訳に関わるワークフローやスケジュールなどを管理するツールです。
TMSは、CATツールの機能も持ち合わせており、それにプラスしてワークフローやスケジュール管理の機能が備わっています。
TMSは、翻訳者を管理する翻訳会社が進捗やファイルなどを一元管理できるようになるというメリットがあります。翻訳者側にとっても、納品がTMSを介して行えるメリットなどもありますが、基本的にはCATツールがあれば十分であると言えます。
まとめ
翻訳作業の効率化を図るなら、CATツールは必須です。慣れるまで多少手間取ることもありますが、作業スピードは格段にアップします。
また、翻訳会社側が「Trados所持歓迎」「Memsourceが使えること」などCATツール使用を条件にあげることもあるので、CATツールが使えることで仕事の幅を広げることもできるでしょう。
まだ使用してない方は、無料で使えるツールもありますのでぜひ試してみてください。